【ヘルニアに強い病院】下半身麻痺でも歩けるようになった、注目の再生医療【岸上獣医科病院】
ダックスフンドが最も注意しなければならない病気のひとつ、ヘルニア。
特集『ヘルニアに、負けない』では、ヘルニアに強い動物病院のご紹介や、ヘルニアを乗り越えたご家族のインタビュー、また予防策など幅広い分野で情報をお届けしていきます。
特集1回目は、椎間板ヘルニアの治療に強いといわれる『岸上獣医科病院』古上裕嗣院長のインタビュー。幹細胞を点滴投与する治療により、歩けなかった子が投与37日で歩いたことも。
目次
『岸上獣医科病院』古上裕嗣(こがみゆうじ)院長
ダックスフンドがかかりやすい疾患の中でも上位に入るのが「椎間板ヘルニア」。
実はダックスフンドは椎間板ヘルニアの好発犬種であり、その大きな理由として、ダックスフンドは遺伝的に他犬種よりも椎間板ヘルニアを発症しやすい要因を持って生まれるのです。
椎間板ヘルニアとは脊椎の間にある椎間板というクッションの役割をする組織が正常な位置からはみ出してしまうことにより脊髄を圧迫して神経症状を引き起こす病気で、椎間板ヘルニアの発生部位により症状は異なりますが、足にしびれや麻痺が起き、場合によっては歩行が困難になるなどの症状が現れます。
椎間板ヘルニアは基本的にどの犬種にも起こり得ますが、とりわけダックスフンドは注意が必要であるため、ヘルニアにさせないための予防やかかってしまった際の治療、そして治療後のリハビリについてオーナーがしっかりと知っておく必要があるのです。
そこで今回は、動物の再生医療分野で大きな注目を集め、幹細胞を用いた再生医療を利用した椎間板ヘルニア治療のパイオニアでもある大阪の動物病院、岸上獣医科病院の院長を務めておられる古上裕嗣先生に、ダックスフンドとヘルニアについてお話を伺いました。
ダックスフンドがヘルニアにかかりやすい理由とは?
古上院長:
確かにダックスフンドは他の犬種と比べて10〜12倍椎間板ヘルニアを起こしやすく、生涯で19〜24%が椎間板ヘルニアの症状を呈するという報告もあるくらいです。
椎間板ヘルニアを起こしやすい素因としては、体格などが関与する生体学的要因と椎間板変性に関与する遺伝的要因が反映されているようです。
ダックスフンドは胴長短足という可愛らしい体格と軟骨異栄養性犬種(*)という椎間板変性を起こしやすい遺伝子を持ち合わせたことで椎間板ヘルニアがより起こりやすくなってしまったと考えられていますが、全てが分かっているわけではありません。
★椎間板ヘルニアの病態生理について
古上院長:
そもそも椎間板とは椎骨間に存在し、線維構造をした外層の線維輪とそれに囲まれた髄核と呼ばれるゼラチン様物質で構成されています。
椎間板ヘルニアはその椎間板の変性様式から、大きくはHansenⅠ型とⅡ型に分類されます。
ダックスフンドはHansenⅠ型を発症するケースが大半です。
HansenⅠ型は一般的に3から7歳齢の軟骨異栄養性犬種に好発し、変性した髄核が線維輪を突き破り脱出して脊髄を圧迫するのが特徴です。
症状は劇的で麻痺や運動障害を起こすことが多く、場合によっては進行性脊髄軟化症という死に至る病態を引き起こすこともあります。
HansenⅡ型は全ての犬種の老齢犬において多く認められ、6 から 8 歳齢の非軟骨異栄養性犬種で多く、線維輪の 一部が断裂しその中に移動した髄核が線維輪を押し上げ慢性的な脊髄の圧迫を起こすのが特徴です。
この他に、最近では別のタイプの椎間板ヘルニアが報告されています。
変性していない椎間板から少量の椎間板物質が非常に強い力で脱出し、明確な圧迫がなく脊髄に障害を与えるもので、病態の中心は炎症と考えられます。
このような症例では後述する幹細胞治療がまさに適応となるのです。
(*)軟骨異栄養性犬種とは軟骨異栄養症という成長期の軟骨内骨化異常によって骨の長軸の発育が阻害される疾患の遺伝子を定着させて作出された犬種のことで、ダックスフンドが代表的ではあるものの、他にもペキニーズ、トイ・プードル、コッカー・スパニエル、ウェルシュ・コーギー、シーズー、フレンチブルドッグなどが挙げられます。
椎間板ヘルニアにさせないための予防とは?
古上院長:
飼い主さんがご自宅でできる予防法は大きく分けて3つあります。まずは“生活環境”、次に“体重”、そして“運動”です。
<生活環境>
・階段の上り下りやソファーやベッドへ昇降するためのジャンプをさせない
・滑りやすいフローリングは避けてマットなどを敷く
・足が滑りにくいよう肉球周りの毛をカットする
・爪を適切な長さに保つ
・移動の際は足元が不安定なケージは避ける(スリングなどはお勧めできません)
・無理な姿勢で抱っこしない。背骨が地面と平行になる様に抱く
・仰向けや両脇の下に手を入れ立たせる様な抱き方はしない
<体重>
2つ目の体重は、足腰に余計な負担をかけないようにするため肥満にさせないことが大切です。
ダックスフンドは比較的食欲旺盛な子が多いので、必要以上に与えすぎず適正体重を維持することを意識してください。
<運動>
そして3つ目の運動ですが、そもそもダックスフンドは狩猟犬であったことから非常に活発な犬種であり、体つきも筋肉質。
しかし現在では室内で飼育されることが多いため運動不足に陥り安いという側面があります。
1日1時間以上の散歩は、30分以下の散歩と比較して椎間板ヘルニアのリスク下げるとの報告もあります。
小型でも本来は運動量が多い犬種ということに配慮し、日々の散歩はしっかりと行いましょう。
散歩による運動で関節や背骨を支える筋肉をしっかりとつけることが大切です。
ただし、いくら注意していても椎間板ヘルニアを完全に予防することはできません。発症を疑ったらすぐに主治医に相談してください。
椎間板ヘルニアの発症を見極める方法とは?
古上院長:
椎間板ヘルニアは重症度をグレード1〜5までの5段階に分類すると、グレード1は元気が無くなり運動や段差を嫌がる、抱っこや背中に触れた際にキャンと鳴く、背中を丸めてじっとしているなどです。
グレード2は足に力が入らず歩く際にふらつくといった症状が出ます。
グレード3以上は足に麻痺が出て歩けなくなるので誰でも様子がおかしいと気付くでしょう。
もし愛犬に上記の様な症状が見られたら椎間板ヘルニアの可能性があります。
また、ダックスフンドに多い「HansenⅠ型」は突然症状が現れるので、いつもと様子が違うと感じたらまずは主治医を受診してください。
なお、椎間板ヘルニアは初期であれば消炎剤や痛み止めを投薬して安静にさせておく内科的治療での回復が期待できます。
無理に運動させて悪化させてしまうケースもありますので重症化する前に、何らかの兆候を感じたらなるべく早く主治医に診てもらうことが重症化させないための第一歩です。
治療方法について詳しく知りたい!
古上院長:
椎間板ヘルニアは重症度をグレード1〜5までの5段階に分類し、1と2は内科での治療、3は外科と内科両方考慮する。
4以上は手術が必要というのが一般的ですが、当院では重症症例には幹細胞治療も併用します。
椎間板ヘルニアはグレードと症状に応じて内科的治療と外科的治療を選択しますが、内科的治療は投薬と数週間の運動制限(ケージレスト)です。
脱出した変性髄核の安定には、3〜4週間の完全なケージレストが必要であり、その後、破綻した線維輪の修復に必要な6〜8週間は軽度な運動のみとします。
脱出した髄核の吸収、石灰化には6〜8ヶ月とされるため、その間はジャンプ、上下運動は控えなくてはなりません。
一方、外科的治療は椎間板によって圧迫されている脊髄の減圧および脱出した椎間板物質や突出した椎間板線維輪の除去を行う治療です。
また、神経の回復のため幹細胞治療、リハビリテーション、温熱療法、鍼灸、マッサージを併用する場合もあります。
★幹細胞治療とは
古上院長:
当院で実施している幹細胞を用いた治療ですが、まず幹細胞治療について説明すると、麻酔をかけた状態で1cm3程度の大きさの皮下脂肪を取り出して2週間培養します。
こうして体外で培養し増やした幹細胞を血管から点滴で身体に戻すと、幹細胞は傷ついた細胞が発するサインを見つけて必要な場所に移動(遊走)し集積します。
遊走した幹細胞は自身が神経細胞や骨細胞などに分化し得られる効果、および幹細胞が分泌するサイトカイン(生理活性物質)によって炎症を抑え、周辺組織を活性化させ組織の再生を促す効果により、傷付いた組織を修復する治療が幹細胞治療です。
なお、幹細胞治療には「自家(じか)と他家(たか)」の2種類があり、自家は自分自身の幹細胞を用いる方法で、他家は他の犬・猫から頂いた幹細胞を使う方法です。
他家幹細胞は培養後凍結保存し常にストックしてあるので、必要なときに解凍し、即日投与することが出来ます。
他人の細胞を入れることに不安を抱く方が多いと思いますが、幹細胞は免疫細胞から逃れる術を持っており、拒絶反応を起こすことはありません。
しかし、他家幹細胞は投与された体内では生着出来ず、2〜4週間程度で体内から排除されると考えられていますので、治療の効果を少しでも高めたい場合、自家幹細胞の方がわずかですが効果が高いのではないかと考えています。
ただ、高齢患者や状態が悪く麻酔のリスクが高い症例では、院内に凍結保存している他家細胞を利用することが多いですね。
他家であれ麻酔や手術を避ける事ができます。
幹細胞を用いたヘルニア治療はどんな犬でも受けられる?
古上院長:
幹細胞治療の実施にあたっては、病気の確定診断が重要です。
幹細胞による椎間板ヘルニア治療を行う場合、必ずCT・MRI検査を行い確定診断をしてからとなります。
その理由として、椎間板ヘルニアと似ている症状の病気が他にもあり、特に腫瘍が関わっている場合は幹細胞治療の適用にはならないからです。
また、ヘルニアのグレードが4以上で症状は重度でもCT・MRI検査で脊髄の圧迫は無く病態の中心が炎症であるものは、手術は必要なく幹細胞のみで治療が可能であり、より低侵襲な治療ができるのです。
当院ではMRIを撮れる病院と提携して再生医療と組み合わせることで、脊椎・脊髄の大きな手術を回避することが可能になりました。
ちなみに、幹細胞の1回投与量は患者の体重によって調整し、投与回数は他家幹細胞では1〜2回、自家幹細胞では1週間おきに3回投与することが多いですが、投与回数は病気や症状によって変わります。
▼細胞投与37日目で回復したフレンチブルドッグ
古上院長:
ダックスフンドと椎間板ヘルニアは切っても切り離せない病気であるけれど、飼い主が正しい知識を持って予防し、もし発症した際にはいち早く専門医に診断を仰ぐことで重症化させることなく回復可能な病気でもあります。
そのためには日頃から愛犬の様子を注視しておくことだけでなく、今回お話を伺った岸上獣医科病院のような、様々な治療法の手立てを持っている病院の存在を知っておくこともとても大切なのです。
古上裕嗣(こがみゆうじ)院長 プロフィール
日本獣医再生医療学会所属。
帯広畜産大学獣医学科を卒業後、現在に至るまで岸上獣医科病院にて勤務し、
うち2015年から2017年までは北摂夜間救急どうぶつ病院にて夜間勤務も兼任。
学生時代に現代表である岸上先生の治療の考え方に感銘を受ける。
また、ご自身も大の愛犬家であり、現在の相棒はミニチュアシュナウザー、先代の相棒はボストンテリアだったそう。
『岸上獣医科病院』病院DATA
住所 |
大阪市阿倍野区丸山通1-6-1 |
---|---|
電話 |
06-6661-5407 |
受付時間 |
9:00〜12:00、17:00〜19:00 |
HP | http://www.dr-kishigami.com/ |
休み | 日曜、祝日 |
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